マイナンバーカードへの保険証統合と、旧保健証廃止に思うこと

マイナンバーカードと保険証を統合して、既存の保険証を原則廃止しようという計画がニュースになってる。落としたら不安とか、再発行に時間がかかりすぎるとか、個人情報が:・・とか色々と反対意見が出てるけど、IT側からの話しをしたい。

IT担当者側からすると「保険証を統合して、既存の保険証を原則廃止する」というのは、かなり酷い仕様変更である。保険証とマイナンバーカードに求められる非機能要件がまったく異なるためだ。

マイナンバーカードは行政業務効率化を目的に設計されている。効率化が目的なので、実は無くても困らない。電子証明書としての機能が使えなくなったとしても、旧来の非効率な業務で仕事をするために、公務員の残業が増えるだけだ。関わるのは申請者本人と行政担当者だけなので、多少の問題は当事者間の交渉で解決できる。本人確認のための身分証としての機能や、印刷されているマイナンバーなんておまけに過ぎない。

保険証は医療保険を使用するときの本人認証と、医療保険の決済手続を目的に設計されている。認証できないと十分な医療を受けられず、健康を損ねたり、人命にかかわる場合もあり得る。また認証上右方に誤りがあると、1件でも数万円~数千万円の損失が発生する。そのためオフラインでの作業も誤りなく行えることが求められる。事業規模的にIT専任担当者を常駐できないことが多い。

要件をざっくり書き出すとこんなに違う。

マイナンバーカード

  • 平日日中16時間稼働、それ以外は止めても問題は少ない。(稼働率99%程度でもよい)
  • 接続拠点数、5,000箇所(1718市町村、出張所や税務署など含めても3倍程度と推測)
  • 希望者のみが使用する。使わない方は従来通りの方法で手続き。
  • 使用頻度は多くても年に数回。使用時のみ携行する。
  • 障害時には従来通り書類手続きで処理。

マイナンバーカード&保険証(旧保険証原則廃止)

  • 24時間365日無停止。保守点検のための停止も難しい。(稼働率99.99%程度は必要か?)
  • 接続拠点数、266,000箇所(病院8,000、診療所102,000、歯科91,000、調剤薬局60,000、自治体など)
  • 全国民が使用する。未成年者や障碍者(おもに視覚障碍者、知的障碍者、認知症患者、四肢麻痺)への配慮が必要。
  • 使用頻度は多ければ毎月。旅行時など常に携行する必要がある。
  • 障害時にはオフライン認証の仕組みが必要。

導入時点でも無茶をすると思ったが、併用ならまだ突貫工事でも(ぶっちゃけシステムが止まっても)なんとかなる。しかし旧保険証を排除するとなると、非機能要件の差が重くのしかかってくるはずだ。

やっかいなのは病院側のセキュリティ対応だ。今の日本のセキュリティ関連の法律は、情報漏洩をさせた場合の罰則が非常に弱い。「セキュリティパッチを当てていない。」「ログインパスワードを共有していた。」など初歩的セキュリティ対策を怠っていたとして、それで善管注意義務として処罰されることは希であるし、情報漏洩に限らず法人に対する罰則は緩いものが多い。現マイナンバー法でも故意に漏洩させたのでは無い限り罰則は無い。現行のままでは早晩情報漏洩を起こすであろうし、かといって厳しくすれば殆どの病院が対応出来なくなる可能性が高い。

良くある非難への反証

マイナンバーカードの再発行には2週間~1ヵ月もかかる。紛失したらどうするのか?→実は健康保険証の再発行にも1週間~2週間かかる。健康保険証を紛失した場合には「健康保険被保険者資格証明書」を即日発行して対応している。「健康保険被保険者資格証明書」の有効期間は1週間程度と極めて短い。同様の代替手段を整備する必要は有るだろう。

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